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目と健康シリーズ No12
網膜剥離と飛蚊症

 網膜は眼底一面に広がっている、カメラのフィルムに相当する薄い膜状の組織です。眼の中に入った光は網膜上に写し出され、映像になります。網膜は、感覚網膜〈かんかくもうまく〉という光を感じとる層と、その土台となっている色素上皮〈しきそじょうひ〉の二層に大別できますが、感覚網膜が色素上皮から剥がれるのが網膜剥離です。破れたりシワになったフィルムではまともな写真が撮れないのと同じで、網膜剥離が起きると視野や視力に影響が現れます。


網膜剥離の自覚症状=視野欠損のほか視力低下や変視症も
 網膜視細胞〈しさいぼう〉への栄養は、網膜の下の層の脈絡膜〈みゃくらくまく〉から供給されています。ですから剥離した網膜は、脈絡膜からの栄養供給が途絶え、視細胞の機能が低下します。そのため光に対する感度が鈍くなり、剥離部分に対応する視野が見えにくい、視野欠損(視野が欠ける)といった症状が現れます。
 また、網膜が破れたときに生じる出血などが眼球内に広がると、ススやゴミのような物が目の前にちらついて「飛蚊症〈ひぶんしょう〉」として自覚されます。さらに、網膜剥離が網膜の中央(黄斑〈おうはん〉)にまでくると、視力が低下したり、物がゆがんで見えること(変視症〈へんししょう〉)もあります。

網膜は再生しない=治療は一刻を争う
 剥離した網膜は、時間が経つと光を感知する機能を失います。一度失われた網膜の機能は二度と再生せず、後遺症が残ってしまいます。ですから網膜の機能が失われる前に、できるだけ早く治療する必要があります。

裂孔原性網膜剥離の原因
 網膜剥離のうち最も代表的なタイプは、裂孔原性〈れっこうげんせい〉網膜剥離といって、網膜の一部に裂孔(裂け目)ができ、そこから網膜の裏側に眼球内の水分が流れ込んで剥離するタイプです。裂孔ができる主な原因は硝子体〈しょうしたい〉の牽引〈けんいん〉です。硝子体とは、眼球内部の大部分を占めている無色透明のゼリー状の組織のことです。
網膜裂孔

硝子体は加齢とともに液化して収縮します。収縮する硝子体の後部が網膜から離れるとき(後部硝子体剥離)、両者の癒着が強い場合、硝子体に網膜が引っ張られて裂孔ができます
網膜剥離

眼球内の水分(液化した硝子体)が裂孔に流れ込むと、網膜が剥がれてしまいます(裂孔原性網膜剥離)。
 硝子体は加齢とともに一部が液体になりはじめ、容積が小さくなります。すると、眼球後方の硝子体と網膜の間にすき間ができます。これを後部硝子体剥離といいます。後部硝子体剥離はそれ自体に問題はないのですが、ゼリー状の硝子体と網膜が病的に(異常に)癒着〈ゆちゃく〉している場合、収縮する硝子体に引っ張られて網膜が引き裂かれ、裂孔が発生します。加齢による変化以外にも、眼球の打撲などで急激に眼球が変形して、網膜裂孔が生じることもあります。
 網膜剥離が生じると、対応する視野が欠けます。剥離が網膜の上のほうに起こると下方の視野が欠け、下方の網膜が剥離すると上方の視野が欠損します。そして剥離部分が黄斑(眼底中央にある視力を司っている部分)に及ぶと、視力が低下します。
 なお、裂孔の位置が網膜の上のほうにあると、重力に従って網膜下に水分が流れ込みやすく、剥離のスピードが早くなる傾向があります。

裂孔原性網膜剥離の原因
●牽引性〈けんいんせい〉網膜剥離…糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などでは、網膜から硝子体に向かって新生血管が伸びて、網膜上に増殖膜〈ぞうしょくまく〉を作ることがあります。硝子体の収縮でこの増殖膜を介して網膜が牽引されると、裂孔がなくても網膜剥離が発生します。
●滲出性〈しんしゅつせい〉網膜剥離…眼底の炎症や腫瘍〈しゅよう〉、腎臓病や妊娠中毒症なども、網膜剥離の原因となります。

20代の人に多い強度近視による網膜剥離
 網膜剥離の好発年齢は、20代と50代です。年配の方に起こる網膜剥離は、後部硝子体剥離によるものが大半なのに対し、若い人の場合は強度の近視によるものが多くあります。
 強度近視では眼球の長さが長く、網膜の周辺部が薄く変性して、萎縮性の丸い裂孔(円孔〈えんこう〉といいます)を生じることがあります。これが、近視の若い人に起こる網膜剥離の原因となります。

裂孔原性網膜剥離の危険因子
―あてはまることがあれば、より注意が必要です―
●強度の近視…強い近視の人は、眼球の長さが通常よりも長く、網膜と硝子体の病的な癒着があることが多く、網膜の萎縮による裂孔(若年者の場合)や、硝子体牽引による裂孔(高齢者の場合)が起きやすいといえます。
●外傷後…眼球を強く打ったときは、眼科検査をおすすめします。
●白内障手術を受けた人…水晶体を摘出したことで硝子体が眼球の前方に移動し、後部硝子体剥離が起きやすくなります。白内障以外の眼内手術でも、眼の中に炎症が生じ、硝子体の変化を誘発することがあります。
●その他…アトピー性皮膚炎の人、網膜剥離の家族歴がある人、片眼に網膜剥離の既往歴がある人

 網膜剥離が起きる前に、なにか前触れはないのでしょうか。もしそうした症状があるのなら、早期診断・早期治療によって、視野も視力もより良好な状態を維持できるはずです。そこでクローズアップされてくるのが、飛蚊症です。

飛蚊症とは〜症状と原因〜
 飛蚊症は、目の前にゴミがちらついて、あたかも蚊が飛んでいるように見える症状のことです。本来は無色透明である硝子体の中に、加齢とともに線維性〈せんいせい〉の混濁〈こんだく〉が生じてきます。その混濁が眼球を動かしたときにフラフラと動いて、飛蚊症として自覚されます。青空や白い壁を見たときなどに、よりはっきり見えます。後部硝子体剥離後はとくに線維性混濁が著しくなることが多く、糸くずやリング状の物が見えたりします。
 これらは加齢とともに多くの人に起こり得る「生理的飛蚊症」といって、心配いりません。たいていの飛蚊症はこれに該当します。しかし、初めて自覚したときには、病気によるものと区別できないので、検査が必要です。

網膜裂孔・剥離の症状としての飛蚊症


網膜剥離が起きた眼の眼底写真
 後部硝子体剥離などの硝子体収縮により網膜に亀裂が生じたり、網膜の血管が切れて出血して硝子体に血液が広がることがあります。この際に飛蚊症が増悪します。これは網膜裂孔や網膜剥離の自覚症状といえますが、症状だけでは生理的飛蚊症と区別はつきにくく、眼底検査を受けなければ判断できません。
 飛蚊症を自覚した場合、まずは早めに眼科を受診しましょう。眼科では、視力や視野の検査とともに、直接網膜を観察する眼底検査を行い、診断を確定します。
 なお、網膜裂孔や網膜剥離の初期には、しばしば目の前に閃光〈せんこう〉が走る「光視症〈こうししょう〉」という症状が現れます。光視症がある場合、飛蚊症だけの症状のときより、網膜剥離の危険性が高いことがわかっています。

生理的飛蚊症といわれたら…
飛蚊症で眼科を受診し、生理的なものと診断されたら、まずはひと安心です。 ただしそれは、今現在は生理的飛蚊症であるということで、今後も網膜剥離が起きないと保証するものではありません。飛蚊症がひどくなったり、別の症状が加わったときは、網膜裂孔や網膜剥離が起きた可能性も考えられます。もう一度調べてもらってください。とくに光視症を自覚した場合は、なるべく早く受診してください。

蚊症・光視症を訴える人に占める
網膜裂孔・剥離の発生頻度


飛蚊症の多くは、とくに問題はない生理的なものです(グラフの色のうすい部分)。ただし、網膜裂孔・剥離の症状の場合もあるので、まずは検査を受けてください。光視症がある場合は、とくに注意が必要です。

 一度できた裂孔や剥離は、薬などでは治りません。手術で物理的に裂孔を塞ぎ、剥離網膜を元に戻す必要があります。

網膜裂孔だけで剥離はしていないとき
 裂孔の周囲組織に人為的な傷を作ります。その傷は治癒の過程で瘢痕〈はんこん〉となり、感覚網膜と色素上皮を癒着させます。これにより、裂孔から網膜下へ水分が流れ込む危険性が減ります。

 瘢痕を作るには、瞳孔〈どうこう〉からレーザー光を照射する光凝固や、眼球の外側から強膜越しに行う冷凍凝固・熱凝固という方法があります。

網膜剥離も起きているとき
 すでに網膜剥離が起きているときは、まず、剥離した感覚網膜を色素上皮に近づけ、硝子体の牽引を弱める必要があります。その方法として、網膜裂孔に対応する眼球の外側にシリコンスポンジを縫いつけ、眼球を内側に押して、色素上皮を剥離網膜に近づける方法(強膜内陥術〈きょうまくないかんじゅつ〉)があります。網膜剥離が進行している場合、網膜下に溜まっている液体を眼球外に排出する方法(網膜下液排液術)や、眼球内にガスを注入しその浮力によって剥離網膜を色素上皮に押しつける方法(眼内ガス注入術)などがあり、剥離の位置や程度によって選択されます。
 感覚網膜と色素上皮のすき間を閉じると同時に、網膜裂孔の治療と同じように、裂孔周囲に瘢痕を作ります。瘢痕ができ癒着が完成するのに1週間程度かかるので、眼内ガス注入術の場合はその間、裂孔部分にガスが当たるような姿勢(通常はうつ伏せ)を保つ必要があります。
 なお、裂孔原性網膜剥離の程度によっては、硝子体を切除・吸引する硝子体手術が、強膜内陥術に代わって行われます。牽引性網膜剥離の治療や硝子体内に出血があるような場合にも適応されます。また、滲出性網膜剥離では、原因となっている炎症や腫瘍などの病気の治療が先決です。

Q. 治療により視力が回復する人としない人の差は、どこにあるのですか?
A. 視力を司っている黄斑が剥離しているか否かによって左右されます。剥離の範囲が広くても黄斑がしっかりしていれば、視野に影響は出るものの視力は大丈夫です。なお、視力や視野など視機能全般の予後は、剥離の大きさ、剥離してから治療を受けるまでの時間が影響します。
Q. 飛蚊症が現れずに網膜剥離が起きることはありませんか?
A. その可能性はあります。ただし、網膜剥離があれば視野欠損など、なにかしらの症状が自覚されます。視野や視力維持・回復には、それを見過ごさず、すぐに治療に結び付けることがなによりも大切です。
Q. 網膜剥離と診断されてから手術を受けるまでで、注意することがあれば教えてください
A. 目を動かすと剥離が広がってしまいますから、できるだけ安静にして目を使わないことです。しかし、睡眠中にも眼球は動くので、目をつぶっていたとしても、それがどれだけ効果があるかは、ケースによって異なります。主治医の指示に従って対処してください。
Q. 網膜剥離が再発する可能性は?
A. 統計的に、9割以上は1回の治療で治りますが、再発して再手術が必要になることもあります。再発は術後2〜3カ月以内に起こることが多く、治療後半年を過ぎて病状が安定していれば、ひとまず安心できます。
Q. 生理的飛蚊症が気になるのですが…
A. 生理的飛蚊症は、例えば皮膚のシワと同じ加齢に伴う変化ですから、とくに治療法はありません。眼底検査を受けて、生理的飛蚊症と診断されたのなら、まずは安心してください。後部硝子体剥離による生理的飛蚊症の場合、硝子体の収縮が進むにつれて、網膜から硝子体混濁が遠くなるため、影が薄くなり、そのうちに気にならなくなることもあります。

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